あらかじめ調べておいた撮影スポットに向かう途中で、
「ホウホウ」というな啼き声が聞こえたような気がした。そら耳かと思ったが、足を止めて耳を澄ましていると、
「ホウホウ ホッホッホッホッ…」
この啼き声は間違いなくフクロウに違いない。道から外れた木立の奥から聞こえてきた。そのあたりは、何年か前にフクロウがいるという噂を聞きつけて、探しに来た場所だった。その時は見つけることができず、その後別の場所で撮影することができたのだった。
再び「ホウホウ」と啼くからこちらも啼きマネをしてみた。
「ほうほう」
すると警戒するどころか、また「ホウホウ」と啼くではないか。
「ほうほう」「ホウホウ」「ほうほう」「ホウホウ」…
そんなふうに呼び交わすことを何回か繰り返した。
「今、ふくろうが啼きましたよね」
いつ近づいて来ていたのだろうか、女性が声を掛けてきた。
「ええ、あれはふくろうの鳴き声ですね」
「もう帰ろうと思って、駐車場に向かっていたんですが、啼き声が聞こえたので戻ってきたんですよ」
園灯の明かりでボンヤリと浮かび上がってきた顔に、見覚えはなかった。その後、ふくろうの啼き声は聞こえなくなってしまった。
「今、たしかに二羽が鳴き交わしていましたね」
「……」
鳴き交わしていたかどうかは、分からなかった。少し離れたとこから聞くと、そんなふうに聞こえたのかもしれない。
その人が言によれば、去年生まれたヒナは、最後まで生き残っていた一羽も死んでしまったらしい。一昨年のヒナは、無事育ったらしい。そんなフクロウ談義をしばらくして、それ以上話を続けていると、月の出の時間が過ぎてしまうので、適当なところで切り上げて満月の撮影スポットへと向かった。
家に戻ってから、あの女性とフクロウについて話している場面を思い返している時、そういうことだったのかもしれない、と閃いたことがあった。その人は、「二羽が鳴き交わしていた」と言っていたけれど、当方が啼きマネをしていたのを、本物のフクロウの啼き声と勘違いして、二羽が鳴き交わしていると思ったのかもしれない、と…。
実際にフクロウの声を間近で聞いていたのは私たちで、その人は離れた場所から聞いたわけだから、聞き間違えた可能性は十分に考えられる。その推測があたっていれば、こちらのフクロウ啼きマネは、かなりのレベルであると思ってもいいのかもしれない。
下の写真は、去年のフクロウのヒナ。あの女性の言葉が誤りでなければ、生き続けることはできなかったことになるが……