昨夜の満月は、厚い雲に邪魔されてやはり撮影できなかった。その代わり、猫との出会いがあり、また鮮やかな夕焼けを見ることができた。
月の出を待って、川のほとりのベンチで簡単な夕食をとっている時、夫人が教えてくれた。
「ネコがいる」
川沿いのサイクリングロードの近くに、小さな黒い塊が見えた。近づいて確かめてみると、確かにネコだった。毛並みは、ノラちゃんにありがちなサビ色、いわゆるサビネコだった。
「まだ小さいな、子猫かな」
とつぶやくと、近くにいた男の人が、
「いえ、もう大人ですよ。子どももいます。しかし驚いたな、逃げませんでしたね。初めての人は警戒して逃げちゃうもんですが」
彼の話は続く。
…かなり以前からこの辺りで見かけるネコで、サビネコはほとんどがメスだから、散歩している人が増えてしまうのを心配して、避妊手術を受けさせるために、臼井の方の動物病院につれて行ったところ、お腹に赤ちゃんがいることが分かり、手術はできなかった。そしてちょっとしたスキに逃げ出してしまった。その後、何日も経ってから再びこの場所に現れた時には、ガリガリに痩せ細っていた…
散歩の人が近づいてくると、すぐ姿を消してしまった。彼は子猫を探しに行ってくると言い残して去って行った。このサビネコには名前がついているのだろうか。名前があれば、それで呼べば戻ってくるかもしれないが、聞き逃してしまった。「サビちゃん」ではいくら何でも安易なので、とりあえず「ニャー」と連呼してみた。
姿を現したのはサビネコではなく、彼女の子どもとおぼしきクロネコだった。
ネコに気を取られているうちに、西の空が炎のように鮮やかな色に染まっていた。