ゲソの大根煮

桜が満開の上野公園に行ったのは先週の月曜日だった。あれからもう一週間が経ったが、その間花冷えの日が多かったので、まだ桜の季節の雰囲気を残しているのかな。


新型コロナのオミクロン株に感染した人の97%は5日以内に発症するという(国立感染症研究所の調査データ)。屋外とはいえ、花見客で混雑する中を歩き回ったのだから、感染する可能性はあったと思われるが、一週間経っても発熱などの症状は出ていないから、悪運強く感染はしなかったということだろうか。


園内の有名な和食屋さんの店先に、大きな声で客寄せをしている出店があった。飲み物・食べ物を提供しているようで、その一つに「ゲソの大根煮」があった。そんな品書きを見たものだから、写真を撮ることに熱中して、まだ昼食をとっていないことに気づいた。足は自然とそちらに向いて行く。


「ゲソの大根煮って、どういうもんですか」
と訊けば、店のお姉さんはナベを指さした。そして透明ガラスのフタを取って中を見せてくれた。
「真っ黒だ!」
「こんな不気味なもの、食べて大丈夫ですか」と言いそうになったけれど、グッとこらえた。店の人がナベの中にハシを入れて、少しかき混ぜてくれた。黒い汁の中にイカの足が見えた。


さすがに気持ちは引いて、どうしようかと店の人の顔を見れば、(さあどうしますか)と言っているようで、成り行きとして注文しなければならないような雰囲気になってしまった。


「じゃ、これください」

 

 

 

 

見た目は不気味だったけれど、食してみると、イカは柔らかく大根も味がよく染みていて、想像していたよりはるかに美味だった。あの黒い汁には、イカスミでも入っているのだろうか。

 

2022年04月04日