月の出は19時24分、実際に月が顔を出し始めるのは、いつも通りなら10分ほど遅れるからその見当で待っていたが、いつまで経っても現れない。周囲はすでに闇に包まれている。先ほど暗くなり始めた頃には、誰かが合図したかのように、カエルが一斉に鳴き始めた。
動画「カエルの鳴き声」40秒
斎藤茂吉の歌集『赤光』の「死にたまふ母」に収録されている歌に、かわずの鳴き声を詠んだ有名な一首がある。「…遠田のかはづ天に聞ゆる」、闇の中に響き渡る鳴き声を聴くと、この場面の心情が実感として胸に迫ってくる。
カエルの合唱を聴きながらさらに待ち続け、結局7時40分過ぎにやっと小高い丘の端に赤みが差してきた。
そして雲の中に隠れてしまった。