スーパームーンの皆既月食(2)
雲間に隠れてしまった月は、なかなか姿を現してくれなかった。雲が切れれば姿を現すだろう、ふるさと広場に集まっている人たちはそう思っているようで、皆あきらめて帰ることなく根気強く待っている。そして減るどころか、月見客は少しずつ増えてきたのだ。皆既月食になる時間に合わせて、予定を立てて来たのだろう。
皆既月食が起こると言われている時間まで待ち、それが見られないことを確認してから私たちは帰途についた、ほぼ途切れることなく駐車している車列を横目に見ながら…。
皆さん、どうしてそんなに忍耐強いんだろう。たとえスーパームーンは見られなくても、たとえ皆既月食を見られなくても、いつもとは違う夜を過ごしたくて、新型コロナのことなど忘れて、田んぼのカエルの鳴き声を聴きながら、遠くを走る京成電車の車窓の明かりを見ていたくて…そんなことを思いながら、車の中で過ごしているのだろうか。
「月見た?」
夫人が何を言っているのか、すぐには分からなかった。
「月の白いカケラが見えるよ」
半信半疑で庭に出てみると、確かに向かいの家の屋根の上に、三日月形に欠けた月が姿を現していた。すでに皆既月食は終わり、満月に戻る途中で一時的に姿を現してくれていた。ふるさと広場で粘っていた人たちにも、この月の光が同じように届けられたことだろう。