サンジェルマン=デ=プレのジュリエット・グレコ(続き)

次のYouTubeの映像は、1991年11月8日に昭和女子大学人見記念講堂で行われたコンサートの模様です。


パリの空の下ほか  ジュリエット・グレコ
(2012/12/03、eri3musashi)

 

ジュリエット・グレコといえばフランスを代表するシャンソン歌手、ドアノーはどうして彼女の無名時代の写真を撮ることができたのだろうか。

 

ウィキペディアによれば、ドアノーがグレコを撮った1947年当時は、彼女はパリ6区セルヴァンドニ通りの家に身を寄せていた。そこからは、数分歩けばサンジェルマン=デ=プレ教会近辺に行くことができる。犬を連れて散歩に出かけることもあったのだろう。そのころドアノーが、どのくらいの頻度で街歩きをしながら写真を撮っていたのかは判然としないが、たまたま教会のあたりで、オーラを身にまとった二十歳のグレコと遭遇したと想像することは許されるだろう。

 

ドアノーはこう思ったはずである(たぶん)。

…彼女の写真を撮りたい。だけど面識のない30半ばの自分が、若い女性に「写真を撮らせてくれませんか」と声を掛けるのははばかれる。そうだ、犬を撮らせてもらおう、それなら頼めそうだ。犬を撮りながら、画面の中に彼女を入れ込もう…

 

あくまでも想像ではあるが、根拠がないこともないのである。猫とか犬の写真を撮るときは、動物の目線に合わせるためにカメラを低く構える。もし彼女を主役に据えて撮るのであれば、もう少し高い位置から撮るはずである。それでも教会を背景に入れることは可能であろう。低く構えて撮っているということは、つまり犬を撮るために、カメラの位置を犬に合わせているのである、

 

また、こんなことも読み取れる。その写真の場所には、犬にとって興味深いものがあって、動きたくないと駄々をこねているのかもしれない。あるいは、女性は犬の写真を撮らせてくださいと頼まれて、犬の顔をカメラの方に向けようとする。しかし、犬はイヤだイヤだとわめいて顔を背けているのかもしれない。女性の視線・表情から想像するに、どうも後者のように思えてならない。そうなのだ、ドアノーは犬の写真を撮らせてくださいと頼んだのだ。

 

この写真の中のグレコは、大きすぎるコート、そしてズボンは折り目がきちんとついた男物を身につけていて、いわば男装をしているようにも見える。しかし男装趣味があったとかということではなく、戦後間もない頃で、不如意な暮らしをせざるを得なかった身としては、ありあわせの男物の黒い服を借りて着るより仕方がなかったということのようだ。

 

ドアノーが写真を撮りたいと思ったのは、男物の服を着ている姿が妙に似合っていて、それがドアノーの写真家としての撮影意欲を刺激したのかもしれない。そして、この時のような黒ずくめの服装が、後に「サンジェルマンスタイル」として定着していったと言われている。

 

2021年04月07日|写真:写真|パリ:パリ|パリの休日:パリの休日